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ちょこっと時間あったのでまた小説を書いてみました。下の音楽でも聞きながら読んでみてください。今回は残念ながら挿絵なしです 汗
「がんばったら」
どんな小さな望みでもきっと
貴方の胸の内を照らすでしょう
包む闇が深いほどソレは
貴方の心で輝くのでしょう
「タッタッタッタッタッ・・・」
真っ白い帽子を被った林道に小さい少女の姿、淡々と靴音だけが響く。周りには人の姿も見えない朝の時間。吐く息も白く、紅潮した頬と手を擦りながら一生懸命走っている。上下する体に合わせて一つに束ねた髪が左右に揺れる。その後ろから近づいてくる影が一つ。
「紗雪~っ、おはよっ!」
楽々と紗雪に追いつき、ぽんっと肩に手を置く。全力で走る少女に余裕の表情で並走している。
「お、おはよ~っ、千夏ちゃん・・・」
息も絶え絶えに千夏に話しかける。二人は全く正反対。体の小さな紗雪、大きな千夏。運動音痴の紗雪に運動神経抜群の千夏。引っ込み思案の紗雪に積極的な千夏・・・。そして、名前までも正反対の季節の二人は小さい頃からの幼馴染。再来月には二人とも晴れて中学生になる予定。でもその前に一大イベント、マラソン大会がある。学校の校庭から始まって町内を半周、女子は5km走ることになっている。体力の無い紗雪は陸上部の千夏と一緒に登校前、毎朝練習していた。
「相変わらず頑張ってるね。でもでも、道のりはまだまだ遠いぞぉ」
にっこりと笑顔で抜き去る。さすが地区「小学校マラソン大会女子の部」の優勝者だ。これくらいは余裕といった感じ。一方、紗雪にとっては厳しい距離。大会まで後2週間、紗雪は不安でいっぱいだった。自分に走りきることができるのか・・・。去年、一昨年、いやいや、小学校4年生からある、この大会で一度もやり遂げたことがないのだ。元々体の弱い紗雪には荷が重いのかもしれないし、学校の先生は途中で歩いても良いよと言ってくれている。しかし、紗雪には思うところがあった。秘めたる思いを胸にしまいつつ学校に向かうのだった。
「ええっと、あの、その・・・。3/4ですか・・・っ?」
紗雪はあたふたしながら答える。難しい算数の問題だった。必死に考えた答えも空しく響く。
「あーっ、惜しい、難しい問題だからなぁ。良い線いってるんだけど。それじゃぁ、隣の千夏。」
「4/5だと思います」
ささっと席から立ち、黒板に解答を書いていく。先生もうんうんと頷いている。周りの生徒からも感嘆の声。千夏は運動だけでなく頭も良かった。チョークをコトっと置き、席に戻る。それを見つめる羨望の眼差しが一つ。
(千夏ちゃんみたいになりたい・・・。)
紗雪は昔から千夏に憧れていた。自分には無いものをたくさん持っているからだ。勉強然り、運動然り、おしゃれ然り。一方自分に何があるんだろうと思い悩むこともある。運動駄目、勉強も駄目、容姿もイマイチ・・・。そんな中、紗雪は千夏にマラソンの練習をお願いした。一つでも自分の中で頑張ってものにしたい、少しでも千夏に近づきたいと思う少女の健気な気持ちだった。
「すごい、すごいよ紗雪ーっ、練習始めたころより走れるようになったじゃんっ」
膝に手を付いて荒く呼吸を繰り返す横で、屈伸をしながらにこにことしている。しかし、今の地点は4km。後1kmが走れるかどうかが鍵になっていた。大会はいよいよ明日。紗雪は焦っていた。毎日少しずつ距離を延ばしていったとはいえ、結局目標の5kmを走れるまでには至らなかったのだ。そんな不安な思いを千夏にぶつけた。
「結局今年も最後まで走れないのかなぁ。私ってホントに何やっても出来ないな。千夏ちゃんが羨ましいよ・・・。」
千夏は大きな伸びをしていたが、紗雪の言ったことを聞いてぴたっと止まった。
「えっ?何で?紗雪って自分で思ってるより大事なものをいっぱい持ってると思うよ?」
千夏はそう言って、紗雪の頭をよしよしと撫でる。同年代だけど、なんかお姉ちゃんみたい・・・。
「千夏ちゃん・・・、お友達だからってお世辞はいいよぉ・・・。きっと、今年も出来ないんだろうなぁ」
そういってがっくりとうな垂れる。その眼から悔しさからか、大粒の涙が頬を伝っている。その様子を見て千夏は優しく声をかける。
「お世辞なんかじゃないってば。どんな遠い道のりでもきっと、歩いてゆけば距離は縮まるし、諦めない心と今日の一歩が大切なんだよ。あはっ、言っててちょっと恥ずかしいけど。私は陸上部だし走れるのは当り前でしょ?紗雪は元々体弱いけど、ここまで頑張って走れるようになったじゃん。それってさー、すごいことだと思わない?最初から出来る時よりも、出来なかったことが出来るようになった時の方が私は素敵だと思うんだよね」
最初、何を言われているのか紗雪は理解できなかった。自分のことがすごい?あの千夏ちゃんが私をそう言ってくれている・・・。少し戸惑っていたら千夏は更に話を続ける。
「頑張ったらいつかはって思う位が良いじゃん、むしろ、願うことをやめちゃった時が先に続かなくなっちゃうよ。仮に明日が駄目でもさ、後に続くことをしてるんじゃないかな・・・。うまく口で表現できないや、ごめんね・・・っ。でも、紗雪のホントの気持ちは勿論走りきることでしょ?今まで頑張ってきたんだ、きっと、きっとさ、出来るよ、紗雪なら」
そういって、俯いたままささっと走って行ってしまった。なんか照れているのか、恥ずかしがっているのか・・・。いつも練習で走っている林道の雪も解けかけており、しばらくその場で紗雪は立ち尽くしていた。憧れていた千夏ちゃんが自分の頑張りを見ていてくれたこと、そしてそれをすごいと言ってくれたこと。何か心の中に込み上げてくる溢れる感情を抑えきれず、小さな女の子は泣き伏してしまった。そして、叶わないと思っていた夢をきっと叶えようと誓った。明日はいよいよマラソン大会。期待と不安が入り混じる中、紗雪は学校に向かったのでした・・・。
精一杯頑張っても
叶わない夢もあるって
大人ぶった台詞より
ホントの気持ちを聞きたいよ
~おしまい~
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